大判例

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高松高等裁判所 昭和26年(ネ)105号 判決

控訴代理人は主文同旨の判決を求め被控訴代理人は原判決を変更し控訴人が被控訴人に対し昭和二十四年一月十九日被控訴人所有の今治市大字今治村甲三百八十六番地の三(通称青木通の中)宅地六百十五坪についてした換地予定地指定通知及び同年五月二十四日附催告書を以て同地上に建ててある被控訴人所有の建物(病室)に対し為した工作物の移転命令はいづれもこれを取消す、訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は被控訴代理人において控訴人は被控訴人に対し昭和二十四年一月十九日本件換地予定地の指定通知を為し次で同年二月十一日同日附通知書を以て同年五月二十二日迄に被控訴人所有地(訴外徳永捷の換地予定地に当る)上に存する被控訴人所有の本件建物を移転すべき旨通告し、更に同年五月二十四日同日附催告書を以て至急建物を移転すべく若し移転しなければ行政代執行法の規定により強制執行をする旨催告し、更にまた同年十月六日同日附戒告書を以て同月十二日迄に右建物を撤去せよ。もし同日迄に撤去しない時は代執行を為すべき旨通知した。故に被控訴人は当審において訴を拡張し本訴請求の趣旨において換地予定地指定通知の取消を求める外工作物移転命令に対してもこれが取消を求めるものである右両個の行政処分は行為は二個であつてもその二個の行為が結合して或る法律上の効果(換地予定地指定通知の効果)を完成する場合であるから相互不可分の関係あるものとして新に工作物の移転命令の取消を請求趣旨に追加する。而して換地予定地指定の通知が公法上の法律効果を生ずる準法律行為的行政訴訟として行政訴訟の対象たり得ることは多言を俟たないが、本件建物に対する移転命令なる処分にこそ実質的な法律効果があるのであつて換地予定地指定の通知なる処分は寧ろ移転命令に附随した極めて効果の薄い行政処分であると共に換地予定地指定の通知だけでは何等の権利を害せられることなく該通知があつて後工作物の移転が完了し土地の使用の開始が通知されてこそ初めて実質的な利益を害するに至るのである。従つて後控訴人は控訴人のなした昭和二十四年一月十九日の換地予定地指定の通知に対しては何等の措置を執らず本件建物に対する移転命令が同年五月二十四日発せられ、右移転命令があつてから六ケ月内である同年十月二十五日に本訴を提起したのであるから該訴は期間経過後のものではないと述べ、控訴代理人において昭和二十四年一月十九日被控訴人に対し本件換地予定地指定の通知を為し、次いで同年二月十一日被控訴人主張の如く建物等工作物移転命令を発したところ被控訴人はこれに応じないので同年五月二十四日行政代執行法により強制執行をする旨催告し、次いで同年十月六日被控訴人主張の如き戒告を発したことは争わない、しかし換地予定地の指定が基本であり移転命令はこれに附随するものであつてその指定自体によつて被控訴人は未だ現実に権利を害されなくてもその起り得ることを予見するに難くない。

仮に建物移転命令があつた日を提訴期間の起算日とすることが正当であるとしても控訴人が建物移転命令を最初に発したのは昭和二十四年二月十一日であるから出訴期間は須くその日から起算さるべきであつて同年五月二十四日を起算日とする謂われはない。尚換地予定地指定の通知を被控訴人になした日は昭和二十四年一月十九日であると述べた外いづれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。(証拠省略)

三、理  由

先づ本訴の適否について判断するに行政庁の違法な処分の取消又は変更を求める訴はその処分に対し法令の規定により訴願審査の請求異議の申立その他行政庁に対する不服の申立のできる場合にはこれに対する裁決その他の処分を経た後でなければこれを提起することができないことは行政事件訴訟特例法(以下単に行特法と略称する)第二条の明定するところである。そしてまた特別都市計画法第二十六条は同法又は同法に基いて発する命令によつて為す処分について都市計画法第二十五条を準用し同法条によれば同法に規定した事項につき行政庁の為した処分に不服ある者は訴願することができる旨定めている。よつて本件について考えると控訴人今治市長が特別都市計画法第十三条により昭和二十四年一月十九日今治市特別都市計画事業として土地区画整理の必要上被控訴人所有の今治市大字今治村甲三百八十六番地の三(通称青木通りの中)宅地六百七十五坪に対する換地予定地として被控訴人主張の土地三百七十九坪二合三勺を指定してその旨被控訴人に通知し、次いで同法第十五条に則り同年二月十一日同日附通知書を以て被控訴人に対し同年五月二十二日迄に被控訴人所有地(訴外徳永捷の換地予定地に当る)上に存する建物を移転すべき旨命じたが、被控訴人はこれを履行しなかつたので、更に同年五月二十四日控訴人は被控訴人に対し速かに右建物を移転すべく若し移転しなければ行政代執行法の規定により強制執行をする旨催告したことは当事者間に争のないところであつて、本訴は控訴人の為した右換地予定地の指定通知及び昭和二十四年五月二十四日附催告(被控訴人はこの催告を建物移転命令であると主張する)はいずれも違法であるとしてその取消を求めるものであることは被控訴人の主張事体に徴して明かであるから行特法第二条により訴提起前訴願裁決を経ることを要するものであるが、被控訴人は本訴提起に先だち愛媛県知事に訴願の申立をしていないことは当事者間に争のないところである。

被控訴人は特別都市計画法第二十六条の準用する都市計画法第二十五条、第二十六条によれば特別都市計画法又は同法に基いて発する命令に規定した事項について行政庁の為した違法処分により権利を毀損せられたとするものは訴願を為し、又は訴願をしないで直ちに裁判所に出訴することを選択的に許されているので訴願を経ないで直ちに裁判所に出訴しても行特法第二条に違反するものでないと主張するのでこの点について考うるに特別都市計画法第二十六条により準用せられる都市計画法第二十五条には前記の如く同法又は同法に基いて発する命令に規定した事項について為した行政庁の処分に対しては訴願が認められて居り、又同法第二十六条には同法又は同法に基いて発する命令に規定した事項につき行政庁の為した違法処分により権利を毀損せられたとする者は行政裁判所に出訴することができる旨規定せられていて訴願と行政訴訟と両者共に許され当事者の選択に委かされていたのであるが、この規定は旧憲法下におけるものであつて、新憲法の下においては行政裁判所は廃止されたのみならず前記の如く行特法においていわゆる抗告訴訟につき訴願前置主義を採用している以上同法施行後は一応訴願を経由するを要し訴願の裁決を経ずして直ちに裁判所に出訴することは許されないものと解さなければならない。

次に被控訴人は本件換地予定地指定の為される事前にその内容を聞知したので昭和二十三年十月二十日控訴人に対し処分前再考を促すため陳情をしたに拘らず、控訴人はこれに対して何らの回答を与えず本件処分をしたもので更めて訴願をするも無益と認められる次第であるから訴願を経ないで出訴するについて正当の事由があると主張し、成立に争のない甲第二号証によれば本件換地予定地指定処分のなされる以前昭和二十三年十月二十日被控訴人から今治市に対しその主張の如き陳情をしたことは認められるけれども、かような事実があつたとしても行特法第二条但し書にいわゆる訴願の裁決を経ないで訴を提起するにつき正当の事由あるものとは断じ得ない。

次にまた被控訴人は控訴人から昭和二十四年二月十一日前記の如く建物移転命令を受け、更に同年五月二十四日若し被控訴人において速かに建物を移転しなければ行政代執行法の規定により強制執行をする旨の催告を受けていたので被控訴人が訴願の裁決を経た上で出訴するにおいては著しい損害を被むる次第であるから訴願の手続を経ないで提起された本訴は適法であると主張し控訴人から被控訴人主張の如き建物移転命令並びに催告の発せられたことは当事者間に争のないところであるけれども被控訴人の言うが如く事急を要し時間的に訴願経由の余裕なく訴願手続を経ていては著しい損害を被むるから該手続を経ないで直ちに出訴したものであるならば何故右昭和二十四年二月十一日控訴人から建物移転命令を受けた当時速かに訴を提起しなかつたのであろうか、右移転命令の発せられてから八ケ月余(本件換地予定地指定通知の為された時から九ケ月余)を経過した昭和二十四年十月二十五日に至つて漸く本訴が提起されたことは本件記録編綴の訴状に押印されてある受付印によつて明かであるからこの事実に徴しても被控訴人は訴願の裁決を経ることによつて著しい損害を被むるから訴願手続を経ないで出訴したのであるとの被控訴人の主張は採用しがたい。

以上の次第で訴願の手続を経ないで本訴を提起したことの適法性に関する被控訴人の主張はいずれも理由がない。

されば本訴は控訴人の抗弁するが如く不適法として却下を免れない。よつて原判決を不当とし民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前田寛 近藤健蔵 萩原敏一)

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